「障がい者雇用」で成功するための4つのセンス

 今年の4月から障害者の法定雇用率が2.0%から2.2%に引き上げられ、精神障がい者が雇用率の算定基礎の対象になります。今後、企業において、ますます障がい者雇用が促進されていくことが予想されます。

 では、障がい者雇用が上手くいっている企業はどのような取り組みをしているのでしょうか?その企業にはいくつかのパターンがあることが分かっています。それは、障がい者の特性や強みを活かした仕事や事業を行い、障がい者が戦力となって働いていることです。そして、そうなるために数々のチャレンジをし、多くの失敗と小さな成功を積み重ね、それを組織(チーム)全体の学びとしてきています。そういった組織(チーム)は組織そのものが柔軟で、自らの学びを通して変容していく組織(チーム)です。

 福岡県にある株式会社障がい者つくし更生会さんは、まさにそういった組織そのもの。「日本でいちばん大切にしたい会社4」(坂本光司著)で紹介され、「第5回日本でいちばん大切にしたい会社大賞 審査委員会特別賞」を受賞しました。同社の見学をさせていただく機会に恵まれ、専務取締役である那波和夫氏からお話をおうかがいしたのですが、その中で最も特徴的と感じたことは、「人それぞれの特性や性質をしっかり見て、それをどのように業務に活かしていくのか、チームとしてどのような成果を上げていくか」というマネジメントと組織のあり方でした。この秘密は、3月上旬に開催する「平成29年度独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業 障がい者の特性に着目した仕事づくり研修」にて詳細が明らかになりますが、このブログで数回に分けて、先取りしてお話したいと思っています。

 

【4つのセンス】

○個々の特性・強みを、のりしろも含めて最大限まで引き出している。

○他者からの承認を通して、モチベーションが高まり、さらなる成長意欲を引き出す。

○チームの中の個人を大切にして、チームで仕事をしている。個人の役割と周りの役割の確認と敬意を忘れない。

○常に挑戦をし、多くの失敗と小さな成功を積み重ねている。失敗は成功の素。あきらめない。プロセスをたどることを組織の強みとする。

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障がい者の特性に着目した仕事づくり研修」ご案内

 

「働きがい」のスタート

ブログ、「やっぱり難しい」のだそうです(涙)。「小学校の高学年にも分かるように書いてみては?」とアドバイスをいただき、考えました。今回はどうだ??

 

「働きがい」のスタートはどこだろう?

それは子どもがお手伝いをするときじゃないかと思いました。

お手伝いなんか嫌でやりたくないけれど、でも、嬉しそうな顔をして褒めてくれる、喜んでくれるお母さんや大人の顔を思い浮かべて、思わずニヤニヤしながら、やったこと。「ありがとう!助かった」と言われて、恥ずかしいけど、うれしくて、ちょっぴり誇らしかったこと。そういう、心から「相手のためにやりたい!」と思って、思わずやっちゃうことが働きがいのスタートだと思うのです。

 

そして・・・

それが垣間見られるお手伝いは、された方もとてもうれしい。きっと、喜ぶ顔を思い浮かべながら準備して、お手伝いしたんだなぁと、そういういろんなことが想像できて、その想いまでもがうれしい。

 

はたらくの語源はたくさんあるけれど、「傍(はた)を楽にする」という意味があるそう。

「自分の身近な人を楽にしてあげたいなぁ」そういう温かくて純粋な気持ちで行ったことに、周りが心から喜んでくれたとき、それが「働きがい」のスタートだと思うのです。

 

働きがいの根源=「(純粋に)相手のためにやりたい、やってあげたい気持ち」+「やってくれる人の(純粋な)想いも含めてうれしい、ありがとうという気持ち」

少しずつ奪われてきた役割

 「内容が難しい!」というご意見を多々いただきました。いろいろ考えると、伝えたいことが多くて、どうしても小難しくなって・・・。短く、分かりやすく書けるよう、頑張りたいと思います!

 

 今日は「労働のあり方」について。世界中の研究結果を調べ、これまでの実践をふまえて考えると、理想的な「労働のあり方」とは、次の内容に尽きる。「一人一人が社会の中で役割をもてる仕事がある」ってことである。それって、なんじゃろな?

 

 昔は結構、「役割=仕事」という構図が成り立っていた。火守りだったり、水汲みだったり(古い?!)、タバコ屋の番をするよく居眠りしているおばあちゃんであったり。直接、そこに対価の支払いが発生しなくても(シャドーワークかもしれないが)、その人がいないと生活が回らなかったり、みんなが困ったりするので、それが仕事として認められ、その人が担うものとして社会的な役割が与えられてきた。そして、その人がいなくてはならない尊い人とみんなが考えていなくても、なんとなく、「いないと困るよね・・・」、みたいにそこに存在したはずだ。

 

 そういった役割は、「認められたい(人としてそこに存在していると感じたい)」とか、「一緒に盛り上がれる仲間がほしい(だれかがそこにいて話ができる)」、「もっとできるようになりたい(他の仕事も頼まれればできるかもね)」、そういった人間の根源的な欲求とか想いとか、そういうものが満たされる可能性が高かったのである。 

 

 今は文明の発達(資本主義の凌駕)によって、そういった、なんでもないけど、実は必要な仕事がなくなってしまったけれど(いや、あるけれど、価値を置かれなくなったというのが実際のところ)。

 

 こういった現象が、障がい者や高齢者といった、現在、社会的弱者と言われている人たちを、本当に「弱者」に追いやってしまった理由だと考えられている。社会における役割まで奪っちゃったのだから。これは社会福祉分野でよく言われる、「障害」の考え方だ。障がいや弱者は社会によってつくられる、という意味だ。

働くってなんじゃろな??

「人はなぜ働くか」

 この問いはいつの時代にもなされる。そして、多くの人が相当、関心をもつテーマでもある。「人はなぜ働くか?」まず、その意味について簡単に整理しておきたい(図を参照)。それは次の2つの側面から捉えることができる。まずは「物理的・経済的な報酬」という側面。もう一つは「社会的・心理的・道徳的な報酬(自己実現、自己成長、社会とのつながり、他者からの承認、社会貢献)」(山村2011)という側面である。前者は働く時間、給与面、待遇面、社会保険関係など、これはハードの面だ。そして、もう一方は、働きがい、モチベーション、人との関わり、自己実現といったソフトの面である。

 人は、仕事が「おもしろい!」、「つらい」という感情を持つとき、必ずそのどちらか、もしくは両方が関連する(でも、実は正しくは片方が起因して、どちらもになっていくのだが)。

 

 働く意味から考えた際、ディーセント・ワークが達成されていない状態というのは、上で説明した2点をふまえて「労働者性のあり方(給料面、雇用主の義務、労働環境面、社会保険の適用等)」と「労働そのもののあり方(一人一人が役割をもった働きがいのある人間らしい仕事)」といった側面から考えることができる。

 働くことがきついとなっている時、人はこの両方がごちゃ混ぜになって、「働くことはもう嫌だ!」となっている場合が多い。そんな時、そのどちらに問題があるのかから考えると整理しやすいと思う。「労働者性のあり方」が問題なのか、それとも「労働のあり方」が問題なのか。

 今、日本で進められている働き方改革は主に「労働者性のあり方」にメスを入れていると考えることができる。それは生きることも含めて大切で不可欠な要素。ただし、本来のディーセント・ワークという視点から考えると、一人一人が役割をもった働きがいのある人間らしい仕事といった「労働のあり方」も、長く働くという意味においてとても大切な要素なのである。前者は想像がつきやすいし、数値的にも表しやすい。つまり、整えると決めて行動を起こせば、ある程度、整いやすいということだ。でも、後者はわかりづらいし、見えづらい。数値化もしづらい。ただし、人のモチベーションに直接関わるところはこちらなのだ。

 

次回からは、「労働のあり方」について詳しく見ていきたいと思う。

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【文献】

Kiernan, W. E. and Knutson, K.(1990) Quality of Work Life, Schalock,R. L. ed. Quality of life: Perspective and issues, American Association on Mental Retardation,101-114. (=1994, 三谷嘉明・岩崎正子訳『知的障害・発達障害を持つ人のQOL ノーマライゼーションを超えて-』医歯薬出版, 143-161)

山村りつ(2011)『精神障害者のための効果的就労支援モデルと制度-モデルに基づく制度のあり方-』ミネルヴァ書房